明治後期から大正にかけて、皇統譜に加列すべきか論議となった南朝・長慶天皇については、全国に御陵とされる伝承が多数名乗りを挙げましたが、本書は画像に見る様に、大正13年頃に茨城県磯原の竹内経基所蔵の文書中に同天皇の御陵に関する文書が見つかったとして、長峰康浩なる人物を通じて、大阪府の獅子窟寺に照会があった、とする経緯を述べ、これを正として著者が書いたものです。竹内経基はもちろん、後の竹内巨麿であり、仲介をした長峰某は、長峰波山として『明治奇人今義経鞍馬修行実歴譚』なる竹内巨麿伝（八幡書店より復刻されたものです）を著した人物です。この大正15年5月には、巨麿は牧野内大臣宛に請願書と長慶天皇御陵推定上申書を提出しておりますが、そうした一連の流れの中で刊行されたものかと推測されます。私が確認したところでは、八幡書店『神代秘史資料集成』天之巻の「南朝秘録」「臣家古文書」にも未収録の広義の竹内文献が引用されており、今では失われた文献が収録されている点でも、初期竹内文献の一端が窺える貴重資料です。また、長慶天皇伝承を有する文書をいつくか挙げており、その中には「富士谷文書」として富士宮下文献、また戦後熊沢天皇こと熊沢寛道氏に便乗した形で南朝末裔を主張した「竹山天皇」こと竹山稔氏の文書も見られます。これで言えば、戦後名乗りを挙げた「正統天皇」は、戦後にいきなり名乗りでたのではなく、基層に伝承背景があった事が確認出来るかと思います。竹内文献というと、超古代史にばかり関心を持つ方が多いですが、初期は既に識者が指摘の通り、南朝伝承などからスタートしており、本書はその一部を窺い知る貴重資料と言えます。また、藤原明氏の『幻影の偽書「竹内文献」戸竹内巨麿』巻末の年表でも、本書以前の竹内文献関係の刊行物はない様で、管見では本書が同文献最初の刊行物かと思われます。私家版で地方出版物のため、殆ど出て来ません。

経年のヤケ、汚れがあります。