川端竜子（かわばた りゅうし／1885年和歌山県生まれ、1966年没）は、日本画家であり、青竜社を主宰した。洋画から出発し、白馬会洋画研究所や太平洋画会研究所で学び、挿絵画家として名を馳せたのち、大正期に日本画へ転向。大正4年に珊瑚会を結成し、院展では「霊泉由来」で樗牛賞を受賞、後に同人となった。昭和4年には会場芸術を掲げ青竜社を創立し、大作を毎回発表。昭和5年に「魚紋」で朝日賞、昭和34年には文化勲章を受章。昭和37年には自邸内に竜子記念館を建て、自作を公開した。晩年まで筆勢は衰えず、バロック的で大胆な線を駆使した独特な画風が特徴である。

川端龍子「錦鯉」日本画 20号大 大作 金泥 絹本 共シール
川端龍子による本作《錦鯉》は、水の中を悠然と泳ぐ二匹の鯉を主題に、自然の生命力と静謐な気配を同時に捉えた日本画です。淡い黄緑や青を基調とした水面は、大胆で伸びやかな筆致によって表され、画面全体にゆったりとした流れと奥行きを生み出しています。その中に浮かぶ錦鯉は、鱗の文様や体躯が柔らかく描き分けられ、水と一体化するかのような存在感を示しています。洋画から出発し、日本画へと転向した川端竜子ならではの感覚が本作にも色濃く表れており、写実にとどまらない構成力と装飾性が際立ちます。水の線は自然の写生というよりも、バロック的とも評される力強い筆勢によって象徴化され、対象を包み込む空間そのものが主役として描かれています。20号という画面サイズながら、余白と運動感を巧みに生かした構成により、実寸以上の迫力と広がりを感じさせる点も見どころです。

本作は東京美術倶楽部の鑑定書を備えており、近代日本画壇を代表する画家・川端竜子の真作としての確かな評価が裏付けられています。錦鯉という吉祥性を帯びた題材を通して、自然の律動と画面構成の力強さを融合させた本作は、青竜社を主宰し独自の「会場芸術」を追求した川端竜子の芸術観を端的に伝える、静かでありながらも深い余韻を残す一作です。