基本情報|Release Information
仮面と薔薇、1930年代の舞踏室に刻まれた幻視的二重奏。
レーベル:Victor
品番:A-1009
フォーマット:10インチ SP盤(78rpm, Shellac)
タグ:Tango, Dance Orchestra, Shellac, 1930s, Latin Influence, American Light Music
作品の解読|Decoding the Work
この一枚に刻まれたのは、二重の仮象——舞踏の熱と記憶の華。1930年代アメリカ、ダンスホールが社交と欲望の交差点であった時代、レオ・レイズマン楽団によって録音されたこの盤は、異国の旋律を洗練と官能のフィルターを通して「演出」した音のステージである。
A面「La Comparsa」は、キューバの作曲家エルネスト・レクオーナによる名高いピアノ曲を原曲とし、その幻想的な旋律が仮面舞踏会="コンパルサ"の記号性とともにオーケストラ化されている。原初的ラテンのリズムは、レイズマンの編曲によって絹のように滑らかに変容し、夜会の仮面の裏に潜むエキゾチズムを響かせる。そこには、ラテン性の再解釈という、ポピュラー音楽における「異国趣味」の制度化が、すでに輪郭を持って顕れている。
B面「Il Tango Delle Rose」はイタリア由来の甘美なタンゴ作品。旋律には装飾的抒情性が宿り、タンゴ本来の陰影を保ちつつ、米国式オーケストレーションによって昼の社交界へと姿を変えている。薔薇の香気は甘美であると同時に、制度的である。つまり、そこには「情熱」の装置化=dance musicとしての欲望調律が働いているのだ。
VictorからリリースされたこのSPは、まさに「音の装置」としてのタンゴを読み解く貴重なテクストである。単なる流行の記録ではなく、アメリカナイズされたラテン音楽がいかに聴覚的幻想を構築し、舞踏空間の美学を統治したかを明かす鍵として響く。レイズマンの指揮下に鳴らされたこれらの音像は、今なお「舞踏」という儀式の記録として、我々の耳に向かって過去のステップを踏んでいる。
支払と配送|Payment & Shipping
発送:匿名配送(おてがる配送ゆうパック60サイズ)
支払:!かんたん決済(落札後5日以内)
注意事項:SP盤の特性上、再生には専用針をご使用ください。古い記録媒体の音質・ノイズを理解できる方のみご入札ください。ノークレーム・ノーリターンにてお願いします。