縦:約51mm(枠含55mm)
横:約51mm(枠含55mm)
作者:ヴィンチェンツォ・チャラヴォーロ
QR:ミュージアムクオリティ
日本市場のカメオの量とは桁違いの数が流れる海外のカメオ市場において異彩を放っていた本作。
サインはあるものの私もこれまでに一度も見たことが無いもので、もちろん購入時作者はわかりませんでしたが、フレームとカメオの様式から1950年頃の物と鑑定し、この頃であればまだカメオにサインを入れるのは一般的ではないから、この表にあるV.Cのイニシャルの人物はそれなり以上の地位がある人物であろうとの目算を立てつつ、また誰の作品であろうと質がいいことは確かなのでとりあえず買い付けに至りました。
その後紆余曲折あって、彫刻師のジュゼッペ・ローマ氏より、本作がヴィンチェンツォ・チャラヴォーロの作品であると情報をいただき、ほかの作例とそれに記された本作と同じサインを確認したことで、本作がチャラヴォーロの作品であることが断定できました。
チャラヴォーロという名、どこかで聞いたことがあると思い資料をあさってみたところ、ディルーカの作家資料において、1936年生まれのジュゼッペ・チリッロ氏の師が当時著名な芸術家であったチャラヴォーロであると記されておりますので、やはり20世紀半ばに活躍した巨匠たる人物であったようです。
他の作品ではキリスト教をモチーフとしたシェルカメオ数点のほか、同じくキリスト教をモチーフとした象牙彫刻の写真もあり、またカメオとサンゴの町トッレ・デル・グレコのサンゴ博物館の館長であり代々サンゴ彫刻師の家系であるリベリーノ家のバシリオ・リベリーノのサンゴに関する著書にも記述があるようですので(ローマ氏による情報なので伝聞、該当書籍は探し中)、おそらくサンゴの彫刻なども含めて広くトッレ・デル・グレコの彫刻師として腕を磨いていたものと思われます。
カメオ現物に目を移せば、品質の高さは画像を見てわかる通りで、彫刻技術はもちろん作画技術にも大変に優れていることが容易に察せます。
モチーフとなっているのは聖母マリアとみられる女性と壮年の男性、そしてその周りを取り囲む天使たち。
男性がマリアに大きな布を手渡していることから、イエス亡きあと、その亡骸を包んだ聖骸布を形見としてマリアへと返還している様子ではないかと思われ、そうするとこの男性はヨハネ、あるいはペトロでしょうか。
数多の天使が見守る中で息子の遺品を受け取るこの場面は、絶妙な構図バランスおよび絵画的表現と彫刻的表現がまじりあった20世紀半ば独特の表現様式で美しく仕上げられており、この完成度は当時カメオ界の頂点にあり同様の様式を極めていたノトの傑作にも迫るといって過言ではありません。
貝はカフェオレ色の地にごく薄い中間層と濃い白色を持ったサルドニクス。
経年の劣化は見られずナレなどは無しで状態良好、ヘアラインは裏面3時位置と画面中央を上から下にかけて数筋みられるも、ほぼ褐色層が表にでていないこともありさして目立たないものとなっております。
フレームは20世紀中期の当時物で14ktゴールド製。
ブローチ金具は20世紀前半、特にアールデコ期のカメオフレームによく見られたものと同じようなカニカン式で、ペンダント用金具も健在です。
こちらも状態は大変良く、フレーム・ピン共に一切歪みなどが無いことやペンダント金具も緩みなくしっかりしている事、それにカメオそのものにも傷みが無かった事からすると、ほぼ未使用のまま仕舞い込まれていたのではないかと思います。