● ガーシュウィン:
歌劇『ポーギーとベス』全曲
ジョナサン・レマル(バス・バリトン:ポーギー)
イサベル・カバトゥ(ソプラノ:ベス)
アンジェラ・ルネ・シンプソン(ソプラノ:セリーナ)
マイケル・フォレスト(テノール:スポーティン・ライフ)
グレッグ・ベイカー(バリトン:クラウン)
ビビアーナ・ヌウォビロ(ソプラノ:クララ)
ロバータ・アレクサンダー(ソプラノ:マリア)
ロドニー・クラーク(バリトン:ジェイク)
プレヴィン・ムーア(テノール:ミンゴ、ロビンス、ピーター、蟹売り)
デイヴィッド・マクシェイン(語り:刑事、アーチデール、警官)
アルノルト・シェーンベルク合唱団
ヨーロッパ室内管弦楽団
ジョージ・ダーデン(ピアノ)
ニコラス・アーノンクール指揮
録音:2009年6月29日~7月7日、グラーツ、ヘルムート=リスト・ハレでのライヴ
「シュティリアルテ音楽祭 演奏会形式上演」
【最もあり得ない組み合わせ、アーノンクールのガーシュウィン】
アーノンクール80歳記念リリース第2弾は、ジャズとクラシック音楽のイディオムを融合させたアメリカの作曲家、ジョージ・ガーシュウィンの代表作で唯一のオペラ『ポーギーとベス』の全曲録音CD3枚組。アーノンクールとガーシュウィンという組み合わせは誰にとっても非常に意外なものですが、アーノンクールにとって『ポーギーとベス』は、子供のころ両親の家で楽譜やレコードを通じてそのメロディに親しんで以来、最も愛するオペラとなり、実際に自分が指揮することを長年にわたって夢見てきた作品でした。80歳を迎える記念すべき今年夏、グラーツで自ら主宰するシュティリアルテ音楽祭において初めてこのオペラを取り上げた時のライヴ・レコーディングしたのが当アルバムです。これはまた、2008年ウィーンでのストラヴィンスキー『放蕩者のなりゆき』に続く、アーノンクールによる20世紀オペラの上演でもありました。アーノンクールが20世紀の音楽作品を取り上げることもきわめて珍しく、ほかには、バルトークの『弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽』『弦楽のためのディヴェルティメント』、ベルクのヴァイオリン協奏曲や歌曲『ワイン』くらいしかなく、その意味でも上演は大きな注目を集めました。
【20世紀オペラの革新作『ポーギーとベス』】
1935年に完成し、同年ボストンで初演された『ポーギーとベス』は、アメリカ南部の貧民街に住む黒人たちの生活を描いたデュボーズ・ヘイワードの小説『ポーギー』をもとに、ヘイワード自身と作曲者の兄アイラ・ガーシュインが台本を書いたもので、黒人霊歌の旋律やジャズの手法をふんだんに取り入れているという点で、オペラ史上に独自の地位を築いています。純情な黒人ポーギーは、ならず者クラウンの情婦ベスをかくまって以来恋仲となるのですが、ベスを取り戻しにきたクラウンと争ったすえに彼を刺殺してしまいます。ポーギーは警察に連行され、絶望したベスは麻薬売りの甘いことばに従ってニューヨーク行きの船に乗ってしまう。そして、釈放されたポーギーもベスの後を追ってニューヨークに旅立つというストーリー。全編親しみやすい旋律に彩られ、『サマータイム』『いつもそうとは決まってないさ』『ベス、おまえはおれの女だ』『おお、おれにはないものばかりだぞ』などの名曲揃い。
充実のオール黒人キャストをそろえ、作品の核心に迫る解釈
今回のアーノンクール盤では、ポーギーを歌うジョナサン・レムラウを筆頭に、マリアを歌う大御所のロバータ・アレキサンダーに至るまでオール黒人キャストを揃えています。また、ガーシュウィンのオリジナル版によっているのもアーノンクールならではのこだわりです。
『グルダとともにモーツァルトにスイングを持ち込んだアーノンクールが、同じことをガーシュウィンで成し遂げたのだ。アーノンクールは、ガーシュウィンのスコアに色彩感やリリシズムをもたらすとともに、緊密に張り巡らされたライトモティーフをも明らかにしたのである』(ディ・ヴェルト紙)
『ヨーロッパ室内管の緊密なアンサンブルによって提示される作品の冒頭からしてすでに、音の色彩感が幾重にも重ねられていることが明らかにされ、ガーシュウィンのポリフォニー技法の見事さや新奇な和声が、同時代のヨーロッパの作曲家の最先端のモダニズムのみならず、1960年代のアヴァン・ギャルドな作曲家たちの技法に酷似したものであることが証明されたのである』(新チューリヒ新聞)など、その作品の核心に迫るアーノンクールの解釈が絶賛されています。
1951年の同オペラ初録音(コロンビア)、完全全曲盤となった1970年代のマゼール/クリーヴランド盤(デッカ)とヒューストン・グランド・オペラ盤(RCA)、映像も作成された1980年代のラトル盤(EMI)などと並び、『ポーギー』上演史に残る鮮烈な録音の登場です。(SONY BMG)