
いまから11年前、中田商店が久しぶりに半長靴を再販した際に購入したものになります。
以来、油を引きながらさまざまな地形を踏破してまいりました。
サイズは27cmになります。
わけても、底が剥がれておりますのは、今から8年前にフィリピンにこの靴で渡り、ルバング島のオノダトレイルに参加中、山中で気づいたらなくなっていたためです。70余年前、これらの島々であった歴史を思い出し、震えたのを覚えております。
また、私が渡った当時のフィリピンは、その半年前まで反政府組織が各地で政府軍と激戦を繰り広げ、いまだ残党がセブやミンダナオの一部にあって政府軍が掃討作戦を行っておりました。
しかしルバング島はのどかそのもので、商店以外は鍵らしいものもなく、警察官はサンダル履きで拳銃のみ、扇風機が回る薄暗い両替所で一日中店員と喋っていたのが対照的でした。
ルバング島から帰る時には立錐の余地もないほど鮨詰めの客船でした。天気晴朗なれども波高しで、枠しかない窓からは波が容赦なく入ってくるため、半透明の厚いビニールで塞がれましたが風が通らなくなり、船室は酷い暑さに加えて激しい揺れで、乗客はもとより船員にも船酔い者が続出していました。そんな中、船員から明らかに機械油用のものを転用したと思われるプラスチックバケツから、激熱かつ激甘のコーヒーを振る舞われ、ヤケドしそうになった上に甘ったるさで船酔いはさらに悪化してしまいました。
さほど高くない天井はサビまみれの鉄骨がむき出しで、真ん中を貫くパイプは舵に繋がっているのか、ドロドロとした機械油を鈍く輝かせながら右に左に回転していました。
狭い通路を挟んだ向こうでは、観光客と思しき5歳くらいの白人の男の子がぐったりとして両親の膝上に乗せられており、その父親から水を求められましたので、僅かでしたが差し上げ、飲み始めた子どもが嬉しそうな顔をしたのも束の間、吐き始めたため後方のトイレに抱えられていきました。
直後に右側から思い切り波を受け、無常感と吐き気が一気に押しよせましたので、他の乗客に倣って救命胴衣を上にかぶってうつ伏せになっていますと、耳にはエンジン音、波、金属と木が軋む音、嗚咽、驚く声、船員の怒鳴り声が常に聞こえてきます。
視界には濁った水が前に後ろに揺れて、この靴を洗っています。
なぜこんな地獄に来てしまったのかと思いながら、頭の中には あゝ堂々の輸送船 と歌が流れていました。
3時間ほどだったと思いますが、目的地のナスグブの港に接岸した時、歓声が上がり隣となり全ての人が喜び合った時の感情はなんとも言えず、揺れない地面とクソ高くたいして冷えてない水を売りにくる物売りに感謝したことはありません。
この靴を見ますと、他にも色々な思い出がありますが、客観的にみればジャンクです。
実用の際には特に底の補修は必至かと思います。
写真をよくご覧いただき、3Nにて宜しくお願い致します。