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聖人の生き方、その言葉に自らの来し方、人生観を重ねる――。 80~82歳にかけて結実した、井上靖、最後の長編。 二千五百年前、春秋末期の乱世に生きた孔子の人間像を描く歴史小説。『論語』に収められた孔子の詞(ことば)はどのような背景を持って生れてきたのか。十四年にも亘る亡命・遊説の旅は、何を目的としていたのか。孔子と弟子たちが戦乱の中原(ちゅうげん)を放浪する姿を、架空の弟子・薑(えんきょう)が語る形で、独自の解釈を与えてゆく。 現代にも通ずる「乱世を生きる知恵」を提示した最後の長編。野間文芸賞受賞作。 本文より 天命とは難しい御質問でございます。ありのままを申し上げれば、子(し)のお口から出たお詞(ことば)の中で、私などには一番難しく、一番怖ろしく感じられるお詞でございます。一体、天とは何でございましょう。天、何をか言うや。四時行われ、百物(ひゃくぶつ)生ず。天、何をか言うやと、子は仰言いました。まことにその通りでございます。天は何も申しません。四季の運行は滞りなく行われ、万物は生長する。併し、天は何も申しません。 確かに自分は五十にして天命を知ったと、そういうお詞が子のお口から出たことがあります。……(本書8ページ) 本書「解説」より この作品が、小説としての豊かな実質を備える半面、『論語』の名句の紹介と解釈を中心とした教訓書という性格をも持つことになったのは半ば必然的なことだったというべきだろう。作家として八十歳に達した著者自身には、人生についての自分の考えを、「人類の教師」である孔子や語り手の薑を通じて読者に語りかけたいという積極的な気持もあったにちがいない。そのために読者は、この作品を通じて、小説としての面白さを味わうと同時に、著者自身の究極の人生観を知ることができる。 ――曾根博義(日本大学教授) 井上靖(1907-1991) 旭川市生れ。京都大学文学部哲学科卒業後、毎日新聞社に入社。戦後になって多くの小説を手掛け、1949(昭和24)年「闘牛」で芥川賞を受賞。1951年に退社して以降は、次々と名作を産み出す。「天平の甍」での芸術選奨(1957年)、「おろしや国酔夢譚」での日本文学大賞(1969年)、「孔子」での野間文芸賞(1989年)など受賞作多数。1976年文化勲章を受章した。 | ||||||||||||||||
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